僕の場合はイリオモテヤマネコ。それ以外のことは何も知らない、僕にとってははるか遠い南の島でした、この旅に出るまでは。
八重山諸島へ2週間の旅に出ていた僕が石垣島を自転車で一周した後、次の目的地に選んだのが西表島でした。せっかくなので西表島の自然を体験してみようとカヤック&ジャングルトレッキングツアーに参加してみることにしました。
(文:片山正樹、写真:那須翔平様ご提供)
1.西表島とは
西表島は石垣島を含む八重山諸島にある島のひとつで、石垣島よりも少し大きめの島です(「八重山諸島」が何を指すのかもこの旅で初めて知りました)。
山がちで島の約90%は亜熱帯の原生林に覆われています。日本では数少ないマングローブを有する地でもあり、まさに日本のジャングルです。島の周囲の四分の一ほどは道路が通っておらず、「未開の地」感が色濃く残っています。
イリオモテヤマネコ以外にも、具志堅用高さんでおなじみのカンムリワシやウミガメなど、国指定の天然記念物がいます(僕は、イリオモテヤマネコは見ることができませんでしたが、カンムリワシは何度か見ることができました。カンムリワシは意外と「どんくさい」らしく、狩りがあまりうまくないそうです)
山がちなので沖縄県内最長の浦内川や仲間川など川がたくさんあり、川でのカヤックやジャングルトレッキングをするのにうってつけですね。
西表島までの行き方については別記事「光のファンタジー ヤエヤマボタルのイルミネーションと最高の夕日が見れる場所」でご紹介していますのでそちらをご確認ください。
◎西表島◎
2.西表島のカヤックツアー参加に至るまで
2018年3月、僕は八重山諸島に2週間ほどの「あてどない旅」に出ていました。
石垣島への往復チケットと初日の宿だけ予約し、2週間の間に何をするのかは一切決めずに出発。逆に決めていたことは、旅の間「スマホを使わない(といってもさすがに電話と写真機能は使い、モバイルデータ通信だけをオフにしました)」、「レンタカー、レンタルバイクは使わない(徒歩、自転車、公共交通機関を使う)」、「時計は極力見ない」。
思いつきで石垣島を4日間自転車一周した後、石垣島の「美ら宿」というゲストハウスの談話スペースで「次はどこに行こうか」と考えていたときにふと目にしたのが、部屋の隅に並べられていた西表島でのカヤックツアーのパンフレット群(ちなみに美ら宿は、「石垣市街の中心部にあって便利」、「設備も整っている」、「きれいで使いやすい」、「しかも安い」とすべて揃っている超おすすめの宿です)。
もともと今回の旅で「ツアー」と呼ばれるものに参加するつもりはなかったのですが、パンプレットを眺めていると「石垣島まで来たのなら、せっかくなら西表島にも行ってみたいなあ」と思い始め、「西表島に行って自然を楽しむなら、今回ばかりはツアーに参加した方がいいな」と考えました。
数あるパンフレットの中から直感で選んだのが「まんさくツアーサービス」というツアー会社のカヤックツアー。一人参加なので日にちだけ決めて行き先はおまかせにし、せっかく行くなら、ということで半日ではなく一日ツアーを選びました(なお、まんさくツアーさんは、秘境感あふれる奥西表の玄関口となる白浜地区に唯一店舗を構えるシーカヤック・カヌーツアー専門店だそうです。少数精鋭で運営されていて、いろんなリクエストにも可能な範囲で応じてもらえそうですよ)。
美ら宿で働くお姉さんに西表島でおすすめの宿を尋ねて教えてもらったのが、西表島の北西部にある「星砂荘」。石垣島観光のフリー情報誌にも載っている素泊まり宿です。
カヤックツアーの前日に西表島に渡り、星砂荘まで行きました。
ちなみに星砂荘はとてもディープで魅力的な宿でした。かなり昔からあるようで古びた建物ではありますが、談話スペースには1980年代に書かれた、俳優の檀ふみさんや平田満さんなどのサインが飾られており、宿の管理人(当時)は大学の研究で西表島に来てその後に島に居付いたお兄さん。海での漁に夢中な長期滞在中のお坊さん(長髪ですが)や、日本語の勉強のためとして近くの農園に1ヶ月ほど働きに来ているスウェーデン人留学生などが泊まっていました。ゲストハウスのように自炊も可能です。
星砂荘
住所:〒907-1542沖縄県八重山郡竹富町西表657
チェックイン:15:00 (最終チェックイン:24:00)
チェックアウト:11:00
部屋数:4部屋
カード:不可
駐車場:1台(要予約)
室内設備:無線LAN・ドライヤー(貸出)・アイロン(貸出)・ボディーソープ・シャンプー・リンス・石鹸・スリッパ
その他設備:セルフコインランドリーコーナー(無料)・<共有>冷蔵庫
URL:星砂荘
URL:星砂荘FBページ
Access:
3.ナーラの滝を目指しジャングルの中のカヤック&トレッキングツアーへ!
3-1.ツアー出発の日の朝
カヤックツアーの行き先はナーラの滝に決まりました。ナーラの滝は西表島の西部にあたる「奥西表」と呼ばれる地域に位置し、仲良(ナーラ)川と呼ばれる川をさかのぼったその先にあります。
星砂荘からツアーの出発地点までは車で送迎してくれることになっていました。
当日の朝9時頃にワゴン車で迎えに来てもらい、まんさくツアーさんの拠点がある白浜というところまで他の参加者の方と一緒に乗せてもらいました。
この日の参加者は10歳くらいの男の子とそのご両親、一人参加のお兄さん、そして僕の計5人。
白浜地区は幹線道路の最終地点です。ここから先は道路が通っていません。「未開の地」感が一気に増します。
まんさくツアーさんの拠点で出迎えてくれたのが、今回ガイドをしてもらう那須さん。
写真の通りとても親近感があり、参加者に安心感を与えてくれるお兄さんです。
一通り説明を聞いて、靴だけゴム素材でできたウェットスーツブーツのようなものに履き替え、出発です。
拠点のすぐ前の浜まで移動して、まずはパドルの動かし方の練習をしました。進み方、曲がり方、止まり方。コツは「からだ全体を使って動かす」でした。腕だけでなく、背筋、腹筋、さらに下半身もしっかり使う。そうすることで長く漕いでも疲れにくいそうです。自転車を漕ぐのと一緒でした。
3-2.ナーラの滝を目指して、いざ出発!
ナーラの滝までは白浜の港から仲良(ナーラ)川を一時間半ほどカヤックでさかのぼり、その後カヤックから降りて700mほど歩くとのことです。
親子3人が三人乗りのカヤック、一人参加のお兄さんは経験者なので一人乗りのカヤックに乗り、僕は二人乗りのカヤックに那須さんと一緒に乗ることになりました。
カンカン照りではないけれども、雲間から日がよく差す、カヤックするには最適な天候でした。冬の間、この地域は曇りや雨が続くことが多くてなかなか晴れません。実際僕が西表島で過ごした5日間も、晴れたのはこの日だけ。でもそれは偶然でもなく、猫の目のように予報も実際もころころ変わる天気でも、新聞の天気予報を見ながら晴れそうな日をツアー参加の日に選んだのでした。
カヤックに乗り込みいよいよ出発。足元にもペダルがついていて、パドルと併せて方向をコントロールできるようになっています。
一旦広い海へと出ます。沖まで漕ぎ出ると周囲は一面の海で陸地は遠くに見えるだけ。一気にテンションが上がりました。教えてもらった通り全身を大きく使ってゆっくりと一漕ぎ一漕ぎ進みます。
進みながら、那須さんが漕ぎ方の説明を何度か追加しました。浜で全部説明しても分からなくなってしまうので、参加者の馴れの度合いを見ながら少しずつです。ありがたい配慮ですね。
併せて西表島の自然や歴史などについても時おり解説してもらいます。川沿いにずっと続くマングローブのことや、道路がなくて船でしか渡れない舟浮集落のことなど。初めて知ることばかりで興味津々でした。
カヤックは意外とスイスイ進みました。海から幅広い河口に入ると、その先は少しずつ川幅が狭くなっていきます。
さらに進むと川幅がどんどん狭くなっていきました。河口付近と同じ川とは思えないほどです。両岸のマングローブがあっという間に身近に迫ってきました。
那須さんとの二人乗りだったので、合間に那須さんと少し会話をしました。那須さんは、以前は長良川でラフティングや沢登りのガイドをされていたのですが、少し前に西表島に来られたそうです。
なんだかんだで出発してから1時間半くらい漕いで、川の上流のポイントに着きました。全身を使ってゆったり漕ぐといってもさすがに結構疲れます。腕を使い続けていると手のひらがじんじんとしびれました。自転車と同じです。
このポイントでカヤックから降りてナーラの滝まで歩くとのこと。トレッキングの準備をするのですが昼食はナーラの滝で作って食べるので、那須さんは野外調理器具と6人分の食料、さらに大量の水までも、一式をカヤックからでっかいリュックに詰め替えて一人で背負います。カヤック、意外と荷物を積めるそうです。
滝まで700m。
「たった700mか」。その距離を最初に聞いたとき思ったのですが、どっこい、想像をはるかに上回る険しい道でした。
かろうじて道があるのが分かるところやすぐ横が崖下となっている細い道もあるなど、なかなかの険しさ加減です。
たくさんの種類のしかも大型のシダ植物や、本州の山や森などで見られるものとはまったく異なる種類の亜熱帯植物群が「これでもか」と言わんばかりに周囲を取り囲んでいました。そんな中をどんどん進んでいきます。
トレッキング中も那須さんは時おり、ジャングルに生息する植物や西表島の歴史や文化などについて解説してくれました。でっかいリュックを背負いながら、しんどそうな素振りは一切ありません。いつも笑顔で。履き物も険しい道なのに参加者のようなブーツではなく、サンダル履きで進んでいきます。サバイバル感とワイルド感がこの上ありません
3-3.ナーラの滝に到着
たった700mが40~50分かかりましたが、見るもの聞くものすべてが新鮮であっという間にナーラの滝にたどり着きました。
ナーラの滝は西表島の中でも比較的大きな滝のようで、しかも間近で見ることができるのでその分、より迫力を感じます。
滝が流れ落ちる岩盤は分厚い岩の板を何層も重ねたような形をしていて、長い年月を経た自然の営みを感じさせます。
滝の下には少し大きめの滝つぼがあり、入って泳ぐこともできます。着替えなども持たないので僕は入りませんでしたが、他のツアーの参加者、特に女性の方々は、何のためらいもなく入って遊んでいる方もいらっしゃいました。さすがジャングルトレッキングのツアーに望んで参加されているだけのことはあり、とても積極的です。
滝のそばで昼食です。那須さんが昼食の準備を始めたのですが、どのようにして昼食を作っていくのかとても興味がありました。
この日はパスタです。携帯ガスコンロをセッティングしてお湯を沸かしてパスタをゆでつつ、併せてパスタソースも作っていく。
そうか、野外ではこうやって調理するのか。屋外での調理はバーベキュー程度の経験しかありませんでしたので、こんな何にもない大自然の中での調理を初めて見ることができとても感激していました。
さらにそれらを手際よく淡々と進める那須さんのサバイバル力の高さと、不測の事態にも一切動じなさそうな雰囲気に「めちゃくちゃかっこいい!」と思ってしまいました。
30分ほどでパスタが完成。6人で食べました。食後には那須さんがインドチャイも作ってくれました。シナモン、ショウガ、そして沖縄なので黒糖入りです。初めて飲みましたがとてもおいしかったですね。
それにしても。
西表島の中でも奥西表と呼ばれる地域の、さらにかなり奥まで来ました。
日常生活の中では決して体感することのない大自然。普段の山歩きなどで見るものとはまったく違う、まるで「異国」のような様相を見せながらも、その場所が、僕が住んでいるのと同じ「日本」であるという驚き。
西表島といえばイリオモテヤマネコしか知らず、心のどこかで「一生行くことはない」と何となく思っていた西表島に、案外あっさりと今自分がいるということが不思議で仕方ありません。
見渡す限りの山と森のジャングルの中で、「僕は今、本当に西表島にいるんだろうか」という思いが何度も頭をよぎりました。
人生初めての体験、新しい発見、不思議な感覚、気持ちの高揚。これだから旅はやめられません。
3-4.帰路、仲良(ナーラ)川を下る
昼食の片付けも終えて帰路に着きます。往きと同じ険しい道を戻っていきました。険しいだけに結構長く歩きました。
川辺までたどり着くとカヤックに乗り込んで川を下り始めます。往きは漕ぐことに必死で周りを見る余裕があまりありませんでしたが、帰りは少し余裕ができて景色もしっかり楽しみながら進むことができました。
川の流れに乗るのでそれほど漕がなくても楽に進みます。往きとは逆に、狭かった川が少しずつ広くなっていき、視界がどんどん広がっていきました。
同乗している那須さんといろんな話をする余裕もできました。僕がしてきた宮古、石垣での旅のこと、西表島の自然のこと、那須さんの長良川でのガイド時代のことなど、色々と話しながら。
下流付近まで来ると川幅もかなり広くなります。川の中に中洲となっているところがあり、皆でカヤックから降りてその上を歩きました。
中洲の砂一面に黒い点々が見えていました。「何かな」と思って近づいていくとその黒い点々が消えます。よく見ると、カニの大群でした。無数の小さなカニが砂の表面に出てきていて、人が近づくと砂の穴の中に逃げ込みます。しばらくするとまた穴から顔を出すのでした。
砂の上はところどころかなりぬかるんでいて時々足を取られます。一度、砂の中から足が抜けずにバランスを崩してこけそうになり、ポケットに入っているスマホをあやうく水没させるところでした。
再びカヤックに乗り込みます。
河口から海に出て最後は出発した浜を目指しますが、潮の流れを考慮してまっすぐ浜には向かわず、大きく迂回しながら進みます。この頃には日差しも強くなっていて、いったいどこまで焼けてしまうんだろうかと内心びくびくしながら漕いでいました。
そしてとうとう浜に到着。水の浅いところでカヤックから降り、カヤックを砂浜まで引き上げました。所要約6時間のツアーが終了です。
だだっ広い海、ゆったりと流れる川、川岸に続くマングローブや森、亜熱帯のジャングル、悠然と流れ落ちる滝。西表島の自然の雄大さに一日中触れて、満足感しかありませんでした。
他の参加者の方は一泊二日のツアーとして参加されていて、この後も夜はキャンプをして翌日もカヤックで回るとのこと。拠点で少し休憩した後、僕だけ宿まで車で送ってもらいました。
まんさくツアーサービス
4.おまけ:旅がもたらす「シンクロニシティ(偶然の一致)」
ツアーの翌日に観光のため浦内川まで行き、近くに炭鉱跡があるというのでその跡に向かって川沿いを歩いていると、その横を3隻のカヤックがスーッと通り過ぎてその先で上陸してきたのが、那須さんを含む前日のツアーの皆さんでした。
さらにその夜、星砂荘のすぐ近くにあるラーメン屋さんに晩ご飯を食べに入ると、那須さんがラーメンを食べていました。
もう1回会わないかなと思いつつ二日が過ぎた西表島最終日、石垣島に戻るために大原港まで戻ってきていました。「さすがにもう会わなかったな」と大原港で並んで船を待っていると船着き場の先の方から声をかけてきたのが、那須さんでした。船で運ばれてきた荷物をたまたま取りに来ていたのでした。
旅をしていると、なぜか時々このような「シンクロニシティ(偶然の一致)」が起こるときがあります。「狭い観光地なんだから行くところはみんなだいたい一緒」と言ってしまえばそれまでなのですが、「また会うんじゃないかな」と思っていると本当に会うこともあったりして、ただの偶然以上の何かがあるように感じるのは僕だけでしょうか。
まとめ
機会があれば、次は西表島のほぼ中央部に位置する「マヤグスクの滝」(マヤグスク=「ヤマネコの城」の意味)までのカヤック&トレッキングを狙ってみたいと思っています。
西表島を訪れてカヤックツアーに参加するなら、奥西表・ナーラの滝に行ってみるのはいかがでしょうか。
(文:片山正樹、写真:那須翔平様ご提供)
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